店舗経営のKPIの決め方|経営者・店長・スタッフで見る数字を分ける
この記事の結論
店舗のKPIは、最終的なゴール(KGI)である利益や売上を、客数・客単価・人件費率のような途中の数字に分け、経営者・店長・スタッフがそれぞれ自分の動きで変えられるものを選んで置きます。飲食店か予約制の店かで効く数字が違うので、いま売上を止めているところから選び、引っ張り合う数字はセットで見るのが基本です。
店舗経営の数字は、売上、客数、客単価、人件費率、予約の埋まり具合と、見ようと思えばいくらでもあります。全部を同じように追いかけると、結局どれも動かせないまま月末を迎えてしまいます。
KPIは、たくさんある数字のなかから「いま、誰が、どの数字を動かすか」を決めるための道具です。この記事では、KGIとKPIの違い、店舗の数字のつながり、飲食店と予約制の店で効く数字の違い、経営者・店長・スタッフで見る数字の分け方を、自分たちも店舗を運営する立場からまとめます。スタッフと一緒に月の目標を決める進め方は、店舗の売上目標の立て方で解説しています。
KGIとKPIの違い:ゴールの数字と、途中で追う数字
- KGI(重要目標達成指標): 最終的に達成したいゴールの数字。店舗なら、月や年の利益、売上
- KPI(重要業績評価指標): ゴールに向かう途中で、毎日・毎週追いかける数字。客数、客単価、次回予約の率など
KGIは結果なので、月の途中では直接動かせません。KPIは、今日の動きで変えられる数字です。KPIを決めるとは、KGIを「今日、何を増やせばいいか」が分かる数字まで分けていくことだ、と考えると分かりやすくなります。
店舗の数字はつながっている:利益から分けていく
店舗の数字は、利益を頂点にした一本の木のようにつながっています。
- 利益 = 売上 − 費用
- 売上 = 客数 × 客単価
- 客数 = 新規のお客さま + 再来のお客さま
- 新規 = 地図検索・予約サイト・SNS・紹介・通りがかりなど、入口ごとの人数の合計
- 再来 = 来店した人のうち、次も来てくれた人
- 客単価 = メニューの単価 + 追加メニュー・物販
- 客数 = 新規のお客さま + 再来のお客さま
- 費用 = 人件費 + 食材・材料 + 家賃 + 広告 + その他
- 人件費率、FL比率(飲食店)、損益分岐点で見る
- 売上 = 客数 × 客単価
木のどこが細くなっているかで、置くべきKPIが変わります。新規は来ているのに再来が少ないなら、次回予約や再来の率。再来は多いのに新規が足りないなら、入口ごとの新規の数。客数は足りているのに利益が残らないなら、客単価や人件費率です。費用の側の数字は、人件費率の目安と計算方法、FL比率とは、損益分岐点の出し方でそれぞれ解説しています。
飲食店と予約制の店では、効く数字が違う
同じ「客数×客単価」でも、業態によって動かしやすい数字が違います。
代表・中野谷のひとこと
飲食店って、結構アッパーないじゃないですか。もう客数かける単価なんで。アッパーはあるはあるんですけど、単価って上げやすいじゃないですか。アイラッシュサロンとかって、そういうのがないんで、計算ができちゃうんですよね。満パンで埋まっても、この金額で、ってできちゃうんで。
飲食店は、席の回転を上げる、一品多く頼んでもらう、といったように、客数と客単価の両方に打ち手があり、売上の上限(アッパー)が見えにくい業態です。だからこそ、客数と客単価を分けて追い、どちらが動いたのかを毎週確かめるのが基本になります。
予約制の店は、席と人と営業時間で、売上の上限がほぼ決まります。中心になるKPIは、予約枠がどれだけ埋まっているか(稼働率)と、新規のお客さまが次も来てくれるか(次回予約や再来の率)です。上限まで埋まっているなら、次の手は単価を見直すか、席と人を増やすことになります。
公的な調査でも、業種ごとに使う物差しが違います。日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」は、生産性の指標として、飲食店には店舗面積3.3㎡当たりの売上高、喫茶店には1客席当たりの売上高、理容業と美容業には椅子1台当たりの売上高を載せています(出典: 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査 利用の手引き」2026年10月確認)。店の売上の上限を決めているもの(面積・席・椅子・人)1つあたりの売上を見る、という考え方は、どの業態でも使えます。
経営者・店長・スタッフで、見る数字を分ける
KPIは、その数字を自分の動きで変えられる人に持ってもらいます。全員が同じ数字を見ていると、誰が何をすればいいのかがぼやけます。
| 役割 | 主に見る数字 | 見る間隔 |
|---|---|---|
| 経営者・オーナー | 利益、人件費率・FL比率、損益分岐点までの距離、新規のお客さま1人を集めるのにかかった広告費 | 毎月・毎年 |
| 店長 | 客数(新規と再来に分けて)、客単価、予約枠の稼働、人時売上高、シフトと人件費の枠 | 毎日・毎週 |
| スタッフ | 次回予約の数、物販の数、口コミをお願いした数など、自分の接客で動く数字 | 毎日・月1回のふりかえり |
スタッフに持ってもらう数字の選び方と、月1回のミーティングでの決め方は店舗の売上目標の立て方に、店長が毎朝確かめる数字は店舗の数字を毎日見る習慣にまとめています。
経営者が年に一度、決算の数字で会社全体を見直すときは、経済産業省の「ローカルベンチマーク」も参考になります。企業の経営状態を把握する「企業の健康診断」のためのツールで、売上高増加率・営業利益率・労働生産性・EBITDA有利子負債倍率・営業運転資本回転期間・自己資本比率の6つの財務の指標と、経営者・事業・関係者・内部管理体制の4つの視点で、自社の状態を確かめられます。無料で使えます(出典: 経済産業省「ローカルベンチマーク」2026年10月確認)。毎日追う店舗のKPIとは別に、会社としての体力を確かめる物差しとして使えます。
KPIの選び方:いま売上を止めているところから選ぶ
KPIを選ぶときに、私たちが気をつけていることは四つです。
- いま売上を止めているところから選ぶ。数字の木のなかで、いちばん細いところに置く
- 役割ごとに2〜3個に絞る。多すぎると、どれを優先すればいいかが分からなくなる
- 数え方を先に決める。誰が、どこに、いつ記録するかまで決めておく
- 引っ張り合う数字は、セットで見る
四つ目は、見落とされがちです。人件費率だけを目標にすると、人を減らして待ち時間が延び、再来が落ちることがあります。客単価だけを目標にすると、勧めすぎて「また来たい」と思ってもらえなくなることがあります。人件費率なら人時売上高や再来の率と、客単価なら次回予約の率と、組みで見ておくと、片方を良くするためにもう片方を悪くしていないかに気づけます。
KPIがゴールからずれていないかも、ときどき確かめます。たとえば新規の数だけを追った結果、一度きりで離れてしまうお客さまばかりが増えていたら、KGIである利益には近づいていません。KPIは、KGIにつながっているときだけ意味があります。
KPIは、決めたあとの見直しまでが仕事
KPIは、一度決めたら終わりではありません。私たちの店舗でも、月1回の全員参加のミーティングで、前の月に決めた数字と結果を並べ、翌月に追う数字を決め直しています。いちばん細かったところが太くなれば、次に細くなるところは別の場所に移るからです。
見る間隔もそろえておきます。売上・予約・出勤は毎日、新規と再来の数は毎週、人件費率と利益は毎月、会社全体の体力は年に一度。この間隔で見ていくと、月末になって初めて気づく、ということが減っていきます。
まとめ
- KGIは最終的なゴールの数字、KPIは途中で追う数字。KPIは「今日、何を増やせばいいか」が分かるところまで分けて置く
- 利益=売上−費用、売上=客数×客単価と分けていき、いちばん細いところにKPIを置く
- 飲食店は客数と客単価の両方、予約制の店は予約枠の稼働と再来の率が中心になる
- 経営者・店長・スタッフで見る数字を分け、引っ張り合う数字はセットで見る
まずは先月の売上を、新規と再来の客数、客単価に分けて書き出してみてください。どこがいちばん細いかが分かれば、来月に追うKPIが決まります。
よくある質問
KGIとKPIの違いは何ですか?
KGIは最終的に達成したいゴールの数字で、店舗なら月や年の利益、売上です。KPIは、そのゴールに向かう途中で追いかける数字で、客数や客単価、次回予約の率などです。
店舗のKPIには、どんな例がありますか?
新規のお客さまの数、再来の数、客単価、席や予約枠の稼働、スタッフ1人が1時間につくった売上(人時売上高)、人件費率、食材費と人件費の割合(FL比率)などです。スタッフには、次回予約や物販の数のように、一人ひとりの接客で動く数字を持ってもらいます。
KPIはいくつくらい置けばよいですか?
役割ごとに2〜3個に絞るのがおすすめです。多すぎると、どれを優先すればいいかが分からなくなります。
飲食店と美容室では、KPIは変わりますか?
変わります。飲食店は客数と客単価のどちらにも打ち手がある一方、予約制の美容室やサロンは席と人と時間で売上の上限が決まるので、予約枠がどれだけ埋まっているかと、次も来てもらえるかが中心の数字になります。
KPIを決めたのに、うまくいかないのはどんなときですか?
一つの数字だけを追って、ほかの数字を悪くしているときです。人件費率だけを下げようとすると待ち時間が延び、客単価だけを上げようとすると再来が落ちることがあります。引っ張り合う数字は、セットで見ます。