新人教育マニュアルの作り方|店舗で最初の2週間に教えること
この記事の結論
店舗の新人教育マニュアルは、分厚い手順書を一度に作るより、最初の2週間に教えることを日ごとに並べ、1枚に1つの手順を写真や動画つきで書き、「なぜそうするか」と「迷ったときの基準」を添えるところから始めると使われます。安全のための教育は法律で義務づけられているので必ず入れ、新人に実際に使ってもらいながら直していきます。
マニュアルは作ったのに、新人が開いていない。教える人によって言うことが違い、新人が「どれが正しいんですか」と困っている。店舗の新人教育では、よくある光景です。
私たちも、自分たちの店舗に新しい人が入るたびに、研修のやり方を見直してきました。正直に書くと、新しく入った人が無事に立ち上がったあとで、研修の中身と、一人立ちまでにかかった日数を記録に残していなかったことに気づいたことがあります。これでは、次に人が入ったときに同じ段取りをもう一度考えることになります。この記事では、その反省も含めて、店舗の新人教育マニュアルの作り方と、最初の2週間に何を教えるかをまとめます。新人が辞めやすい時期と研修の詰め方そのものは、新人がすぐ辞める店舗の共通点と、3ヶ月のオンボーディング設計で扱っています。
マニュアルが使われない3つの理由
使われないマニュアルには、たいてい次のどれかが当てはまります。
- 一度に全部を書こうとして分厚くなり、どこを読めばいいのか分からない
- 作った人の頭の中が前提になっていて、「いつもの感じで」「適量」のように、初めての人には分からない言葉が残っている
- 置き場所がばらばらで、誰も直さないうちに中身が古くなる
私たちは、マニュアルを「教える人の代わり」ではなく、「教える人どうしの言うことをそろえる道具」と考えています。教える人が変わっても同じことを伝えられれば、新人は迷いません。
先に分ける: マニュアルで覚えることと、横について教えること
全部をマニュアルにしようとすると、作る側が疲れて止まります。最初に、マニュアルに向くことと、横について教えたほうが早いことを分けてください。
| マニュアルに向くこと | 横について教えること |
|---|---|
| 店の約束(身だしなみ、遅刻や欠勤の連絡の仕方) | 接客の言葉づかいの細かな調子 |
| 開店・閉店、レジ締めの手順 | 施術や調理などの技術 |
| 受付、電話、予約の受け方 | お客さまの様子に合わせた判断 |
| 備品の場所、掃除の順番 | 忙しいときの動き方 |
左の列は、誰が教えても同じになるべきことです。右の列は、見て、やってみて、直してもらって覚えることです。マニュアルは左の列から作り、右の列は「何ができたら合格か」だけを書いておきます。
最初の2週間に教えること
最初の2週間は、教えることを日ごとに並べておくと、教える人が替わっても続きから進められます。目安として、次のように並べてみてください。
| 時期 | 教えること | できるようになってほしいこと |
|---|---|---|
| 初日 | 店の約束、1日の流れ、安全のこと、困ったときに誰に聞くか | 分からないときに誰に聞けばよいかが分かる |
| 2〜3日目 | 受付、電話、予約の受け方、お会計 | 先輩が横にいれば受付ができる |
| 1週目の終わりまで | 担当する仕事の基本の手順 | 手順書を見ながら一人でできる |
| 2週目 | 一人でやって先輩が見る、困ったときの対応 | デビューしてよいかを判断できる |
2週目の「困ったときの対応」は、必ず入れてください。お客さまに分からないことを聞かれたら、その場でごまかさずに「確認してご連絡します」と持ち帰る。お客さまから強い言葉を受けたら、一人で対応を続けずに責任者を呼ぶ。この2つが決まっているだけで、新人は安心して店に立てます。お客さまとのトラブルへの店の備え方は店舗のクレーム対応とカスハラ対策にまとめています。
なお、参加してもらう研修の時間は、勤務時間として扱います。厚生労働省のガイドラインは、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講を、労働時間に当たる例として挙げています(出典: 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」2026年10月確認)。
安全のための教育は、法律で決まっている
マニュアルに必ず入れたいのが、安全のための教育です。労働安全衛生法は、雇用形態や国籍にかかわらず、労働者を雇い入れたときや仕事の内容を変えたときに、安全衛生教育を行うよう事業者に義務づけています(出典: 長野労働局「安全衛生教育を効果的に実施してください」2022年8月)。アルバイトやパートも対象です。
教える項目は、労働安全衛生規則第35条で次の8つが決められています。
- 機械や原材料などの危険性・有害性と、その取り扱い方
- 安全装置や保護具の性能と、その取り扱い方
- 作業の手順
- 作業を始めるときの点検
- その仕事で起こりやすい病気の原因と予防
- 整理・整頓と清潔を保つこと
- 事故のときの応急の対応と退避
- そのほか、その仕事の安全や衛生のために必要なこと
以前は、飲食店やサロンのように一部の業種では、1から4の項目を省略することが認められていました。2024年4月1日からはこの省略の規定がなくなり、業種を問わず1から4も教えることが必要になっています(出典: 厚生労働省 通達「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」基発0531第9号)。
店舗に置き換えると、包丁や熱い油、薬剤や機器の扱い方、重い物の持ち方、施術で手や腰を痛めない姿勢、床が濡れているときの転倒、火事や地震のときの逃げ方などです。こうした内容を、初日のマニュアルにまとめておきます。
マニュアルの作り方: 5つの手順
- 仕事を書き出す — 1日の流れに沿って、店長と先輩に「新人が最初につまずくこと」を聞きながら並べる
- 1枚に1つの手順にする — 写真か短い動画を添え、文字は少なくする。1枚が長くなったら分ける
- 「なぜ」と「迷ったときの基準」を書く — 手順だけだと、少し状況が違うだけで動けなくなる。理由と、迷ったら誰に聞くかまで書く
- 新人に使ってもらって直す — 新人が手を止めたところ、聞き返したところが、直す場所
- 置き場所を1つにして、直す人を決める — 紙とスマホとファイルに分かれると、どれが新しいのか分からなくなる
私たちの店舗では、マニュアルをスタッフ全員が見られる社内の共有ページに置き、店の責任者を中心に少しずつ足してもらっています。文章の下書きはAIに手伝ってもらうこともできます。何をAIに任せて何を人が確かめるかは、店舗運営のAI活用を参考にしてください。
手順書と一緒に、何をどこまで任せてよいかの線も書いておくと、あとで役に立ちます。新人だけでなく、店長が急に抜けたときに代わりの人が動けるかどうかも、この書き方で決まるからです。店長の仕事の書き出し方は店長が休職・退職したときの引き継ぎで詳しく書いています。
マニュアルを作ると、店のことが言葉になる
マニュアルづくりは手間がかかります。それでも私たちが勧めるのは、作る過程で、店の中で言葉になっていなかったことが見つかるからです。
代表・中野谷のひとこと
インターンを受け入れるって決めたら、受け入れ体制を作らなきゃいけない。そうすると、会社の中で言葉になっていないものを、言葉にせざるを得なくなるんです。人に頼っていた業務も、自然とマニュアルになっていきます。
(YouTube「アルバイトと社員の待遇差、どう設計する?同一労働同一賃金を店舗経営者が解説」より)
新人を迎えるたびに、「これはどうしてこうするんですか」と聞かれます。その質問への答えを1行ずつ足していけば、マニュアルは店の考え方の記録にもなります。最初のページには、手順より先に、この店がお客さまに何を大事にしているかを短く書いておいてください。
研修は、途中で一度判断する
研修の日数は、最初から決め打ちしないほうがうまくいきます。覚える早さは人によって違うからです。
代表・中野谷のひとこと
研修の量がわからないので、とりあえず2日終わったタイミングで判断していこう、という感じにしようか。デビューいけますよ、となったらデビューしてもいいと思うし、難しそうだね、となったらもうちょっと研修すればいい。
途中で判断するには、「何ができたらデビューか」がマニュアルに書いてある必要があります。受付が一人でできる、基本の手順を見ずにできる、困ったときに責任者を呼べる、といった形で、できたことに印をつけていく表を用意しておくと、教える人も新人も、いまどこにいるかが分かります。そして研修が終わったら、何を何日で教えたかを残しておきます。次に新しい人が入ったとき、その記録がそのままマニュアルの改善の材料になります。
まとめ
- マニュアルは教える人の代わりではなく、教える人どうしの言うことをそろえる道具。マニュアルで覚えることと、横について教えることを先に分ける
- 最初の2週間に教えることを日ごとに並べる。困ったときの対応(持ち帰る・責任者を呼ぶ)は必ず入れる
- 安全衛生教育は、アルバイトも含めて雇い入れたときの義務。2024年4月からは、業種を問わず省略できない項目が増えた
- 1枚に1つの手順、理由と迷ったときの基準、新人に使ってもらって直す、置き場所と直す人を決める。研修は途中で一度判断し、何を何日で教えたかを残す
まずは、直近で入った人に「最初の1週間でいちばん困ったこと」を聞いてみてください。その答えが、マニュアルの1枚目になります。
動画で見る
代表の中野谷が発信している YouTube「店舗運営チャンネル【採用と集客】」から、この記事に関係する回です。
最初の研修を週に少しずつ進めるより、短い期間に詰めたほうが覚えたことを忘れにくく、周りとも打ち解けやすい理由を代表が話しています。
よくある質問
新人教育マニュアルには何を書けばよいですか?
店の約束(身だしなみ、遅刻や欠勤の連絡の仕方)、1日の流れ、開店・閉店やレジ締めの手順、受付や予約の受け方、安全のための注意、困ったときに誰に聞けばよいか、です。技術や接客の細かな調子は、マニュアルより横について教えるほうが伝わります。
マニュアルは誰が作ればよいですか?
店長が一人で作るより、先輩スタッフに「新人が最初につまずくこと」を聞きながら作るほうが、現場で使えるものになります。できあがったら新人に使ってもらい、分からなかったところを直します。直す担当を1人決めておくと、内容が古くなりません。
アルバイトにも安全衛生教育は必要ですか?
必要です。労働安全衛生法は、雇用形態や国籍にかかわらず、労働者を雇い入れたときに、その人が就く業務の安全や衛生のための教育を行うよう事業者に義務づけています。2024年4月からは、それまで一部の項目を省略できた業種でも、省略できなくなりました。
マニュアルは動画と文字のどちらで作ればよいですか?
手の動きや順番が大事な作業は短い動画、確認することや判断の基準は文字が向いています。1本の動画に詰め込まず、1つの作業ごとに短く分けておくと、あとから見返しやすくなります。