スタッフどうしの「ありがとう」を仕組みにする|店舗の雰囲気と定着
この記事の結論
スタッフどうしの「ありがとう」は、気持ちに任せておくと、シフトがずれて顔を合わせない店ほど届かなくなります。送る場所と回数の上限、発表の場を決めて仕組みにすると続きます。私たちの店舗では、送った人にも受け取った人にもポイントがつく「ありがとう」の仕組みと、月1回のミーティングの最後に言葉で褒め合う時間の2つを組み合わせています。
雰囲気のいい店は、人が辞めにくい。店舗を運営していると、多くの人がそう感じているはずです。では、その雰囲気はどこから来るのか。私たちは、スタッフどうしで交わされる「ありがとう」「助かった」の量だと考えています。
ところが、この「ありがとう」は、気持ちに任せておくと忙しい店ほど届かなくなります。そこで私たちの店舗では、ありがとうを送り合う仕組みを作り、月1回のミーティングでも言葉で褒め合う時間を設けています。この記事では、その2つをどう決め、どこでつまずき、何が効いたかをまとめます。
「ありがとう」は、忙しい店ほど届かなくなる
シフトで回る店では、スタッフどうしが同じ時間に働くとは限りません。早番の人が残してくれた準備に遅番の人が助けられても、その日のうちに顔を合わせることはない。気づいた人が「あとで言おう」と思ったまま、言いそびれる。こうした小さな言いそびれが積み重なると、「自分のしたことは誰にも見られていない」という感覚が残ります。
経営者や店長が、毎日すべての店にいるわけでもありません。
代表・中野谷のひとこと
基本的に僕、人を褒めて伸ばしたいタイプなんです。誰々がこれに対して褒めてたよ、というのを細かくフィードバックしたり、これすごかったね、というのを人経由で伝えたり。ただ、それは距離が近いとできるんですけど、店舗とか遠くなると難しいなって、最近は思ってます。
本人が直接伝えられないなら、伝わる道を作るしかありません。それが、ありがとうを「仕組み」にしようと考えたきっかけです。
私たちが作った「ありがとう」の仕組み
私たちの会社には「ありがとうをいう。ありがとうをもらう。」という行動指針があります。これを日々の行動にするために、スタッフが使う社内の仕組みの中に、ありがとうを送り合える場所を作りました。同僚どうしで感謝の言葉とポイントを贈り合う、いわゆるピアボーナスの考え方です。
決めたことと、その理由は次のとおりです。
| 決めたこと | 理由 |
|---|---|
| 送った人に1ポイント、受け取った人に2ポイント | 送ること自体を参加として認め、送る人を増やす |
| 送れるのは1日3回まで | 気軽さは保ちつつ、数を競う道具にしない |
| 同じ相手へは1日1回まで | 仲のいい人どうしの往復で点が増えるのを防ぐ |
| 短すぎる一言では送れない | 何をしてくれて、何が助かったのかまで書いてもらう |
| 全員が見られる一覧に流れ、拍手を押せる(拍手は点に関係しない) | 受け取った本人以外にも、店で起きたいいことが伝わる |
| 月間でいちばん多く受け取った人を、月1回のミーティングで表彰 | 仕組みの外で、言葉で称える場をつくる |
| 送ったあとに消す機能は付けない | 消して送り直すことで回数を増やせないようにする |
いちばん考えたのは、送る側にも点をつけることです。受け取った人だけに点がつく形だと、送る行為が「誰かのため」だけになり、忙しい日には後回しにされます。送るだけで自分にも点がつけば、ありがとうを探すこと自体が楽しみになります。
始めてみると、思っていた以上に使われました。代表の中野谷も、会議で「ありがとうのやつ、あれは結構使いやすいですね。めっちゃ活発です」と話しています。シフトの交代を引き受けてくれた、忙しい時間に代わりに対応してくれた、といった、店長がその場では気づけない「助かった」を、文字で残せるのがこの仕組みのいいところです。
最初のつまずき: 「送ったのに、届いていない」
うまくいかなかったこともあります。始めた初日に「送ったのに一覧に出てこない」という声がありました。
原因は、私たちの作り方でした。短すぎる一言では送れない決まりにしていたのに、文字数が足りないときの知らせが画面の上のほうに小さく出るだけで、送った本人が気づけなかったのです。せっかく書いたありがとうが、本人の知らないうちに消えていました。
すぐに、入力欄の横に「あと何文字で送れます」「まだ送れていません」と出るように直しました。ありがとうの仕組みは、送った人が「ちゃんと届いた」とその場で分かることが何より大事だと学びました。最初の一回が届かなかった人は、次から送ってくれなくなるかもしれないからです。
仕組みだけでは足りない。肉声の「ありがとう」を残す
仕組みは、言いそびれたありがとうを拾う道です。ただ、それだけで店の空気が変わるわけではありません。私たちの店舗では、月1回の全員参加のミーティングの最後に、必ず「褒め合い」の時間を入れています。数字のふりかえりや翌月の目標の話のあとに、一人ずつ手を挙げて、誰かのよかったところを伝えて終わります。
あるとき、ミーティングで伝えたありがとうもポイントに数えるのか、と聞かれたことがあります。そのときの代表の答えがこれです。
代表・中野谷のひとこと
これは肉声で伝えてるからね。文字じゃなくて、テキストじゃなくて。お金とかじゃ代えがたいよね、このありがとうは。
ポイントの仕組みと、顔を見て伝える言葉は、役割が違います。仕組みは毎日の小さな感謝を残し、ミーティングの言葉は、その月を一緒に乗り切った実感を全員で分け合う。私たちは、この2つをセットにしています。数字の話と褒め合いをどうつなげるかは店舗の売上目標の立て方でも紹介しています。
褒め合いの時間を続けるためのルール
褒め合いの時間は、進め方を間違えると気まずい時間になります。私たちが決めているのは次の4つです。
- 手を挙げた人から始める。誰が誰を褒めてもよい
- その場にいる数人で順番に回さなくてよい。休みの人に向けてもよい
- 全員に満遍なく回すことを目的にしない
- 何をしてくれて、何が助かったのかを具体的に言う
2つめは、あるとき代表がミーティングで伝えたことです。その場の数人だけで順番に褒め合うと、名前の出なかった人が「自分は言われていない」と感じてしまう。だから、その場にいない人に向けてもいいので、気持ちを届けてあげてほしい、と。3つめも同じ考え方で、代表は「満遍なくやればいいという問題じゃない。ありがとうを伝えていくんだよ」と話しています。形だけそろえた褒め言葉は、すぐに見抜かれます。
ポイントを、お金や評価に直結させない
仕組みを作ると、ポイントを給与や評価に反映したくなるかもしれません。ここは慎重に考えてください。お金や評価に直結した瞬間、ありがとうは「点を稼ぐための言葉」に変わりやすくなります。送る回数や同じ相手への上限を決めたのも、点を目的にさせないためです。
表彰をするなら、ミーティングで名前を呼んで称えることを中心にします。賞品を出す場合は、会社としてどう出すのか、税務上どう扱うのかを、事前に税理士に確かめておくと安心です。
小さく始めるなら、仕組みより先に「場」を決める
専用の仕組みを作らなくても、始められることはあります。
- 店の共有ノートに「ありがとう」のページを作る
- スタッフの連絡グループで、ありがとうを書くときの決まった書き出しを決める
- 月1回のミーティングの最後の数分を、褒め合いの時間にする
順番としては、まずミーティングの褒め合いから始めるのがおすすめです。言葉で伝える経験が先にあると、文字で送る仕組みも自然に使われます。感謝が届く関係ができていると、忙しい時期のシフトの相談もしやすくなります。シフトの決め方とあわせて考えたい方は店舗の定着率を上げるシフト設計もご覧ください。スタッフが友人に「うちの店、いいよ」と言える空気ができると、紹介からの応募にもつながります。紹介が出る店の条件はリファラル採用の始め方で整理しています。
まとめ
- ありがとうは、気持ちに任せると忙しい店ほど届かない。送る場所・回数の上限・発表の場を決めて仕組みにする
- 送る人にも点をつけると、送ること自体が参加になる。送れたかどうかがその場で分かる作りにする
- 仕組みとは別に、月1回のミーティングの最後に言葉で褒め合う時間を残す。満遍なく回すことを目的にしない
- ポイントをお金や評価に直結させない。小さく始めるなら、まずミーティングの褒め合いから
次の一歩として、次のミーティングの最後に、褒め合いの時間を入れてみてください。誰か一人が手を挙げれば、店の空気は少しずつ変わり始めます。
よくある質問
ピアボーナスとは何ですか?
従業員どうしが、感謝や称賛の言葉と一緒にポイントなどを贈り合う仕組みです。上司から部下への評価とは別に、同僚どうしの「助かった」「ありがとう」を見える形で残せるのが特長です。
小さな店舗でも、ありがとうの仕組みは必要ですか?
スタッフが数人の店でも、シフトがずれると同じ時間に働かない人どうしは顔を合わせません。経営者や店長が毎日店にいない場合はなおさらです。専用の仕組みがなくても、共有のノートやグループの連絡で「ありがとう」を書く場所を決めるだけで始められます。
ポイントは、給与や評価に反映したほうがよいですか?
直結させるのはおすすめしません。お金や評価に直結すると、ありがとうが点を稼ぐための言葉に変わりやすくなるからです。表彰をするなら、ミーティングで名前を呼んで称えることを中心にし、賞品を出す場合の扱いは税理士に確かめておきます。
送る人や受け取る人が偏ったら、どうすればよいですか?
偏り自体は気にしすぎなくて大丈夫です。全員に満遍なく回すことを目的にすると、言葉が形だけになります。送る側にも点がつくようにしておくと、送ること自体が参加になり、使う人が少しずつ広がります。
ミーティングの褒め合いの時間が気まずくならないコツは?
手を挙げた人から始め、誰が誰を褒めてもよいことにします。その場にいる人だけで順番に回す必要はなく、休みの人に向けてもかまいません。何をしてくれて、何が助かったのかを具体的に言うと、聞いている側にも伝わります。