面接官トレーニングの基本|店長の研修で何を教えるべきか
この記事の結論
面接官の研修で教えることは「見る項目と聞き方をそろえる」「聞いてはいけないことと、求職者への接し方のルールを共有する」「条件は正確に、想いは自分の言葉で伝える」の3つです。一度の研修で終わらせず、面接に同席し合い、判断が割れた例を持ち寄る場を月に一度つくると、店長が何人いても面接の質がそろっていきます。
「面接官の研修をやったほうがいい」とは思うものの、何を教えればいいのか分からない。外部の研修を調べても大きな会社向けの内容が多く、店長が店を回しながら面接もしている自社には合わない。そんな声をよく聞きます。
私は前職でアルバイトの紹介事業の立ち上げに関わり、面接を数多く行うチームで仕事をしてきました。いま面接の代行に取り組むなかでも実感するのは、面接は少し変えるだけで結果が変わる、ということです。逆に言えば、面接官のやり方がそろっていないと、同じ求人・同じ応募者でも結果がばらつきます。この記事では、店長やアルバイトリーダーが面接官を務める店舗に向けて、研修で教えるべき3つの中身と、少人数でも続けられる進め方をまとめます。
研修の前に: 面接官の仕事を「見極める」と「選ばれる」の2つと定義する
研修を始める前に、面接官の役割をそろえておきます。面接は、こちらが応募者を見極める場であると同時に、応募者がお店を選ぶ場でもあります。いいなと思う人ほど、ほかのお店の面接も受けているからです。
見極めだけに寄った面接官は、質問を重ねるだけで終わり、応募者の気持ちを冷ましてしまいます。反対に、口説くことだけに寄ると、シフトや通勤のずれを見逃して早期離職を招きます。「この時間で、相手を見極めると同時に、相手に選んでもらう」。この二つの目的を最初に共有しておくと、あとの指導が通りやすくなります。
教えること1: 見る項目と聞き方をそろえる
最初に手をつけるのは、面接官ごとに違っている「見るところ」と「聞き方」をそろえることです。厚生労働省も、面接を行うときは質問の項目と評価の基準を前もって決め、仕事に必要な適性と能力を見るよう示しています(出典: 厚生労働省「公正な採用選考の基本」2026年10月確認)。
研修で配るのは、次の2枚で十分です。
- 質問リスト — 勤務できる曜日と時間帯、通勤と両立、接客やチームの場面での過去の行動、困ったときの動き方、応募のきっかけと不安。全員に同じ言葉で聞く質問を決めます
- 評価の物差し — 項目ごとに「どういう答えなら何点か」を短い文で書いたもの
聞き方の型は、仮定ではなく過去の行動を聞くこと、答えに対して「そのとき具体的に何をしましたか」と一段掘ること、相手が考えている間の沈黙を面接官が埋めないこと、の3つです。質問と物差しの作り方は「構造化面接のやり方」で詳しく解説しています。
もう一つ、研修で必ず伝えておきたいのが、応募者が「どういう経路で来たか」を確かめてから面接に入ることです。
代表・中野谷のひとこと
スカウトで「まずは一度面談しましょう」と送ると、応募が来た感覚はあるんです。ただ、面接官は「君、応募したんだよね?」、向こうは「面接してほしいと言われたから来た」と、温度感の違いが出やすい。そこだけ注意しながら、2回面接するようなイメージです。
求人に自分から応募した人と、お店から声をかけて来てもらった人とでは、面接に来たときの気持ちが違います。後者に、応募した人と同じ調子で志望動機を問いただすと、話はかみ合いません。声をかけて来てもらった人には、まずお店のことを知ってもらう面談にして、見極めは次の回に回す。こうした進め方の違いを、面接官全員が分かっている状態にしておきます。
教えること2: 聞いてはいけないことと、求職者への接し方のルール
面接官が悪気なく踏み込んでしまう質問は、雑談の中で出てきます。研修では、避けるべき事柄を2つの類型で配っておきます。生まれや家庭に関わる「本人に責任のない事項」(本籍・出生地、家族、住まい、生活環境など)と、内面に関わる「本来自由であるべき事項」(宗教、支持政党、尊敬する人物、愛読書など)です。
厚生労働省は、こうした事柄を把握すると、採否に使うつもりがなくても判断に影響し、就職差別につながるおそれがあるとしています(出典: 同上)。女性にだけ子どもが生まれた場合に働き続けるかを尋ねるなど、男女で質問を変えることも、男女雇用機会均等法の違法事例として示されています(出典: 厚生労働省「男女均等な採用選考ルール」令和8年6月作成)。
もう一つ、研修で必ず扱いたいのが、2026年10月1日に施行された、求職者へのセクシュアルハラスメントの防止措置です。面接に来た人に対する従業員の性的な言動を防ぐための措置が、事業主の義務になりました。会社としての方針をはっきりさせて面接官を含む従業員に知らせることや、相談窓口を決めて求職者に知らせることなどが求められています(出典: 同上)。面接官研修は、この方針と、面接の場所や連絡の手段といった自社のルールを伝える場としても使えます。
避けるべき質問の考え方と、雑談で出やすい言い方の例は「面接で聞いてはいけないこと」で整理しています。研修では「リストにない踏み込んだ質問はしない」「迷ったら聞かない」と決めておくのが確実です。
教えること3: 条件は正確に、想いは自分の言葉で伝える
内定を出しても辞退される面接官と、承諾してもらえる面接官の差が出やすいのが、この部分です。面接官には、お店のことを自分の言葉で話せる準備が要ります。
代表・中野谷のひとこと
条件の説明は機械的でいいんですけど、想いは少し乗せておいたほうがいいです。みんながしっかり働いてくれた分は還元したいと思っている、作業として働くんじゃなくて、お客さんを笑顔にする仲間を募集しているんだ、というところは、ぐっと言っちゃったほうがいい。
時給やシフト、仕事の範囲といった条件は、誤解が残らないよう正確に、淡々と伝えて構いません。そのうえで、次の3つを面接官が自分の言葉で言えるところまで練習します。
- この店が大事にしていること — 会社として目指していることを、働く人の目線で言い換えたもの
- その人がここで働く良さ — 本人が気にしていた点(シフトの融通、覚えられること、一緒に働く人など)に合わせて話す
- 一緒に働きたいと思った理由 — 来てほしい人には、面接で聞いたどの話が良かったのかを具体的に返す
そのためには、面接官自身がお店の仕事を具体的に知っている必要があります。1日の流れ、最初に教える仕事の順番、シフトの決め方。応募者からの質問にその場で答えられない面接官は、それだけで応募者を不安にさせます。
一次と二次で面接する人が分かれている場合は、一次の担当者の一言も大切です。合否を最後に決める人がほかにいるなら、「私はぜひ一緒に働きたいと思っています。最後にもう一人と話してもらいますが、私からは推しておきますね」と伝えておく。そう言われた応募者は、ほかの会社の話を止めて待ってくれることがあります。私自身も、最後の判断に迷うときは「お店の雰囲気や、店長が一緒に働きたいかを大事にしているので、店長とも話してもらえますか」とお願いすることがよくあります。
少人数でも回せる研修の進め方
研修の型は、次の5つで足ります。
- 準備 — 質問リストと評価の物差しを作る。作るのは経営者か採用の責任者1人で構いません
- 共有 — 面接官の役割、見る項目、聞いてはいけないこと、求職者への接し方のルールを説明する
- ロールプレイ — 面接官役・応募者役・観察役の3人1組で回す。観察役は「一段掘れていたか」「条件を正確に伝えたか」「想いを自分の言葉で話せていたか」を伝える
- 同席 — 慣れていない面接官が、慣れた人の面接に同席する。逆に、慣れた人が新しい面接官の面接に同席して、終わったあとに一言ずつ伝える
- 月1回の振り返り — 実際の面接を持ち寄り、判断が割れたケースと、辞退されたケースだけを話し合う
一度きりの研修では、やり方はすぐ元に戻ります。効くのは4と5で、ここを続けられるかどうかで定着が決まります。採用がうまい店長が普段どんな段取りをしているかは「採用がうまい店長がやっていること」も参考にしてください。
研修だけでは埋まらない差をどう扱うか
とはいえ、面接官が何人もいれば、力量の差を研修だけでなくすことはできません。店を回しながら全員が同じ面接をやり切るのも、忙しい日ほど難しくなります。
そこで考えたいのが、面接のうち「全員に同じことを聞く部分」を仕組みに任せ、面接官には「選ばれる部分」に時間を使ってもらう分け方です。一次面接で勤務条件や過去の行動を同じ質問で聞き、記録として残しておけば、店長は記録を見たうえで、二次では口説くことと条件のすり合わせに集中できます。一次面接まわりのどこまでを仕組みにできるかは「一次面接を自動化する方法」で整理しています。
まとめ
- 面接官の役割は「見極める」と「選ばれる」の両方。研修の最初にこの二つをそろえる
- 教えるのは、見る項目と聞き方、聞いてはいけないことと求職者への接し方のルール、条件の正確な説明と自分の言葉での想いの伝え方の3つ
- 一度きりで終わらせず、同席と月1回の振り返りで定着させる。全員に同じことを聞く部分は、仕組みに任せる選択肢もある
次の一歩は、直近の採用で承諾してもらえた人と辞退された人を並べ、面接で何を伝えたかを面接官ごとに書き出してみることです。そこに、研修で最初に扱うべきテーマが見えてきます。
よくある質問
面接官の研修では、何を教えればよいですか?
見る項目と聞き方をそろえること、聞いてはいけないことと求職者への接し方のルール、条件を正確に伝えつつ自社で働く良さを自分の言葉で話すこと、の3つです。知識を配るより、ロールプレイで実際に声に出して練習するほうが身につきます。
店長が面接官をしている小さな会社でも、面接官研修は必要ですか?
必要です。店長ごとに聞く内容や判断の基準が違うと、応募者どうしを比べられず、採用後のずれも起きやすくなります。半日ほどの研修と、月に一度の振り返りから始めれば、少人数でも続けられます。
面接官研修で、法律面では何を伝えるべきですか?
本籍・出生地や家族のこと、思想・信条など、仕事の適性と関係のない事柄を尋ねないこと、男女で質問を変えないことです。2026年10月からは、採用面接などで求職者へのセクシュアルハラスメントを防ぐ措置も事業主の義務になっており、その方針を面接官に周知しておく必要があります。
面接官によって内定承諾の差が出るのはなぜですか?
見極めの質問はできていても、この店で働く良さや一緒に働きたい理由を伝えられていないことが多いからです。条件の説明は正確に淡々と行い、そのうえで会社が大事にしていることを自分の言葉で伝える練習をすると、差は縮まります。