回数券・サブスクを店舗で売るときの注意点|前受金と特定商取引法
この記事の結論
回数券やサブスク(定額のプラン)は、施術やサービスの前にお金を受け取る売り方です。まだ提供していない分はお客さまから預かっているお金として使える売上と分け、エステや美容医療なら特定商取引法の「特定継続的役務提供」、券を発行するなら資金決済法、解約の決まりなら消費者契約法に当たらないかを、売り始める前に確かめます(2026年10月時点)。
回数券や、毎月定額のプラン(サブスク)を売り始めると、店の売上は安定して見えます。次の来店が決まりやすく、月の見通しも立てやすくなります。サロンや整体、ホワイトニング、ジムなど、施術やレッスンを提供する店では、もう当たり前の売り方かもしれません。
ただ、先にお金を受け取る売り方には、先にお金を受け取るからこその注意点があります。結論から言うと、気をつけるのは「まだ提供していない分のお金の扱い」「当たる法律の確認」「売るときの説明と、売ったあとの約束」の3つです。私たちの店舗にも回数券を中心に販売している業態があり、自分たちが運営しながら考えてきたことを交えて整理します。
この記事の法律の内容は2026年10月時点のものです。自分の店の契約に当てはめるときは、最後に専門家へ確認してください。
回数券とサブスクは「先にお金を受け取る」売り方
回数券は、何回分かの施術やサービスを、まとめて先に買ってもらう売り方です。サブスクは、毎月決まった金額で、決まった回数や通い放題のサービスを提供する売り方です。形は違いますが、どちらも「お金を受け取ったあとに、サービスを提供する約束が残る」という点は同じです。
店にとってのよさははっきりしています。次の来店が決まりやすく、売上の見通しが立ちます。一方で、売れたときに売上が大きく見えるぶん、店の本当の状態が見えにくくなります。代表の中野谷も、回数券を中心にした業態について「回数券のビジネスモデルは、毎月ドキドキする」と話しています。新しく買ってくれるお客さまが少ない月は、その先の売上がすぐに細っていくからです。
受け取ったお金は「まだ提供していない分」を分けて見る
回数券で受け取ったお金は、手元にあっても、そのすべてが店の自由に使えるお金ではありません。
代表・中野谷のひとこと
回数券が多いと、全然売った気がしなくて。回数券の売上は手元にあるじゃないですか。でも、未使用の分があるんですよ。その分は、僕たちが持っているだけなんで。
まだ施術していない分は、お客さまに提供を約束しているお金、つまりお客さまから先に預かっているお金(前受金)に近いものです。これを運転資金としてすべて使ってしまうと、店を閉める、ほかの人に譲る、長く休むといったときに、返金や引き継ぎで困ることになります。
そこで、毎月次のことを数えておきます。
- お客さまごとに、何回分が残っているか
- 有効期限があるなら、いつまでに何回分が使われる見込みか
- 残っている回数を金額に直すと、いくらになるか
帳簿の上で、受け取ったお金をいつ売上にするかの扱いは、会計と税の考え方が関わります。自分の店のやり方は税理士に確認してください。
券を発行するなら、資金決済法も確かめる
回数券のように、券や番号を渡して、何回分かのサービスを先に買ってもらう形は、資金決済法の「前払式支払手段」に当たる場合があります。法律では、サービスの数量に応じた対価を得て発行され、そのサービスの提供を求めることができる券なども前払式支払手段に含まれています(出典: e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」第3条、2026年10月確認)。
一方で、発行の日から6か月以内に限って使えるものには、前払式支払手段の規定が適用されません(出典: 同法第4条・同法施行令第4条第2項、2026年10月確認)。自分の店だけで使える「自家型」は、毎年3月31日と9月30日の基準日の未使用残高が、基準額の1,000万円(資金決済法施行令第6条)を最初に超えたときに届出が必要になり、未使用残高の2分の1以上の発行保証金を供託するか、保全の契約などで代える必要があります(出典: 同法第5条・第14条、関東財務局「前払式支払手段(商品券・プリペイドカード等)関係」、2026年10月確認)。
自分の店の回数券が当たるかどうかは、券の形や有効期限によって変わります。本店の所在地を管轄する財務局に、券の内容と有効期限を示して確かめてください。
エステ・美容医療なら「特定継続的役務提供」に当たるか確かめる
特定商取引法には、長い期間にわたって提供され、金額も大きくなりやすいサービスについて、「特定継続的役務提供」というルールがあります。対象は、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスの7つです(出典: 消費者庁「特定商取引法ガイド」、2026年10月確認)。店舗に関係しやすいエステティックと美容医療の要件は次のとおりです。
| 対象 | 期間 | 金額 |
|---|---|---|
| エステティック | 1か月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 美容医療 | 1か月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
エステティックは「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術を行うこと」とされ、美容医療に当たるものは除かれます。美容医療は医学的な処置などのことで、歯を漂白するためのものも含まれます(出典: 同上)。自分の店のメニューがこの定義に当たるかは、ガイドの定義と照らして確かめ、迷うときは専門家に相談してください。
これに当たる契約を結ぶ店には、主に次のことが求められます(出典: 同上)。
- 契約の前に、契約の概要を書いた書面(概要書面)を渡す。契約したら、遅滞なく契約の内容を書いた書面(契約書面)を渡す。書面には、前受金の保全の措置があるかどうかとその内容も書く
- 著しく事実と違う表示や、実際よりも著しく優良・有利だと誤認させる広告をしない
- 勧誘のときに、事実と違うことを告げる、わざと事実を告げない、威迫して困惑させる、といったことをしない
- 特定商取引法第45条により、前払い方式で5万円を超えるサービスを提供する店は、業務と財産の状況を書いた書類を用意し、お客さまが求めたら見られるようにする
お客さまの側には、書面を受け取った日から8日以内のクーリング・オフと、その期間を過ぎたあとの中途解約が認められています。中途解約のときに店が請求できる損害賠償などの額には、上限があります(出典: 同上)。
| 対象 | サービスの提供を始める前 | サービスの提供を始めたあと |
|---|---|---|
| エステティック | 2万円 | 提供したサービスの対価に加えて、2万円か契約残額の10%のいずれか低い額 |
| 美容医療 | 2万円 | 提供したサービスの対価に加えて、5万円か契約残額の20%のいずれか低い額 |
化粧品や健康食品などを契約と一緒に売っている場合は、「関連商品」として、本体の契約と一緒に解除できるものがあります。教室や習い事の店に当てはまる場合の考え方は習い事・スクールの集客でも触れています。
サブスク(定額のプラン)で気をつけること
毎月払いの定額のプランが特定継続的役務提供に当たるかどうかは、契約の期間の決め方や、先に受け取る金額のまとめ方によって変わります。ここでは言い切らず、自分の契約書の内容で専門家に確認することをおすすめします。そのうえで、サブスクならではの注意点が2つあります。
1つ目は、Webで申し込んでもらうときの表示です。お店のホームページなどからインターネットで申し込みを受けると、通信販売のルールが関わります。消費者庁のガイドでは、申込みの最終確認の画面に、分量、販売価格(サービスの対価)、支払いの時期と方法、提供の時期、申込みの期間の定め、申込みの撤回や解除に関することを表示するよう定められています。広告では、契約を2回以上続けて結ぶ必要があるときは、その旨と内容を表示する項目もあります(出典: 消費者庁「特定商取引法ガイド」通信販売、2026年10月確認)。
2つ目は、解約の決まりです。消費者契約法では、解除に伴う違約金などのうち、同じ種類の契約の解除で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効とされ、消費者の利益を一方的に害する条項も無効とされています(出典: e-Gov法令検索「消費者契約法」第9条・第10条、2026年10月確認)。「途中でやめても一切返金しない」「解約は店頭でしか受け付けない」といった決まりを作るときは、内容と伝え方を必ず専門家に見てもらってください。
売るときの説明と、売ったあとの約束
回数券やサブスクでいちばん多いトラブルは、法律の手前にある「聞いていた話と違う」です。とくに困るのが、お客さまが回数券を買ったのに、予約が取れないことです。
代表・中野谷のひとこと
回数券を買っているのに、有効期限がどうのこうのとか言われたり、いつまでにブライダルがあって、とか言うと、ごめんなさいしか言えない。
予約が集中する時期は、店によって決まっています。回数券を売るなら、その時期に回数券のお客さまが予約できる枠を残しておくこと、有効期限を予約の取りやすさに合わせて決めることが、売ったあとの約束を守ることにつながります。空き枠の管理の仕方は予約システムの選び方でまとめています。
売る前には、次のことを紙に書いて渡し、口でも説明します。
- 回数、有効期限、1回あたりの内容と時間
- 予約の取り方と、予約が取りにくい時期があること
- 休会、プランの変更、解約と返金のルール
- 残りの回数をどこで確認できるか
もう1つ大事なのが、押し売りにしないことです。私たちの店舗では、回数券をおすすめする仕事があることを、採用の面接の段階で先に伝えています。おすすめすること自体は、お客さまに合う通い方を提案する仕事です。ただ、成約の数を一人ひとりのノルマだけで追うと、強い勧誘になりやすく、スタッフも苦しくなります。私たちは、施術の最後に今日の状態に合わせた次の目安を伝えることを基本にしていて、その考え方はサロンの次回予約率・リピート率を上げるで書いています。
売れ方には波もあります。私たちの店舗では、大型連休はふだん来ないお客さまが多く、回数券は売れにくいと感じています。連休の売上だけを見て、回数券の売り方を変えないことも大事です。
店を閉める・譲る・休むときの扱いを先に決めておく
回数券やサブスクを売るなら、店を閉める、ほかの人に譲る、長く休むといったときに、残っている回数をどう扱うかを先に決めておきます。
- 返金するのか、ほかの店舗やほかのサービスで使えるようにするのか
- 譲る場合、残っている回数分を譲る相手が引き継ぐのか、お金で精算するのか
- フランチャイズに加盟しているなら、本部の決まりがあるか
これを決めておくと、毎月数えている「残っている回数」が、そのまま判断の材料になります。
まとめ
- 回数券とサブスクは、先にお金を受け取って、あとで提供する売り方。まだ提供していない分は預かりとして、毎月残りを数える
- エステ・美容医療は特定継続的役務提供、券を発行するなら資金決済法、解約の決まりは消費者契約法を、売る前に確かめる
- 売るときは回数・期限・予約の取り方・解約を紙で説明し、売ったあとは予約の枠を残して約束を守る
次の一歩として、いま売っている回数券やプランの説明を、お客さまに渡す紙1枚に書き出してみてください。書けない項目があれば、それが先に決めておくべきルールです。
よくある質問
回数券で受け取ったお金は、すぐに使ってもよいですか?
手元のお金としては使えますが、まだ施術していない分は、お客さまに提供を約束しているお金です。誰が何回分残っているかを毎月数え、店を閉める・譲る・長く休むときに返金や引き継ぎができるよう、使える売上とは分けて見ておきます。帳簿でいつ売上にするかは税理士に確認してください。
エステの回数券にも、クーリング・オフはありますか?
契約の期間が1か月を超え、金額が5万円を超えるエステティックの契約は、特定商取引法の特定継続的役務提供に当たり、書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフができます(消費者庁「特定商取引法ガイド」)。期間を過ぎたあとの中途解約にもルールがあります。
回数券を発行すると、届出が必要になりますか?
券や番号を渡して何回分かのサービスを先に買ってもらう形は、資金決済法の前払式支払手段に当たる場合があります。発行の日から6か月以内に限って使えるものは対象外です。自分の店だけで使えるものは、基準日の未使用残高が基準額を超えたときに届出などが必要になります。当たるかどうかは、本店の所在地を管轄する財務局に確かめてください。
サブスクの途中解約で、違約金を取ってもよいですか?
取ること自体はできますが、消費者契約法では、解除に伴う違約金などのうち、同じ種類の契約で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効とされています。金額と条件は契約の前に示し、決め方は専門家に確認してください。