AIで経営の壁打ちをする|数字と議事録を読ませて相談する使い方
この記事の結論
AIで経営の壁打ちをするときは、会社の考え方と、売上などの数字、会議の記録を先に読ませてから相談します。そのうえで、賛成の意見だけでなく、反対の意見や別の立場からの見方をあえて出させ、AIの答えと自分が決めたことを分けて残します。AIはこちらの考えに沿った答えを返しがちなので、最後に決めるのは経営者自身です。中小企業や店舗の経営者でも、今日から同じやり方で始められます。
経営者は、相談できる相手が少ない立場です。社内の人には言いにくいことがある。かといって、外の人に毎回時間を取ってもらうのも難しい。そんなとき、AIを壁打ちの相手にする経営者が増えています。
代表の中野谷も、会議の記録や数字をAIに読ませて、経営の相談相手にしています。ただし、AIの答えをそのまま採ることはしません。この記事では、中小企業や店舗の経営者がAIで経営の壁打ちをするときの、渡し方・聞き方・決め方をまとめます。
壁打ちの質は「先に何を読ませたか」で決まる
何も渡さずにAIへ経営の相談をすると、どの会社にも当てはまる一般論が返ってきます。間違ってはいないけれど、自分の会社の判断には使いにくい答えです。
AIを相談の相手として使うなら、先に会社のことを読ませておきます。
- 会社の考え方 — 理念や大事にしていること、やらないと決めていること
- 事業の説明 — 何を、誰に、どうやって届けているか
- 数字 — 売上、客数、客単価、人件費、採用の応募数など、毎月見ている数字
- 会議の記録 — 何を話し、何を決め、何を保留にしたか
なかでも効くのが、会社の考え方を書いた文章です。
代表・中野谷のひとこと
自分のホームページだと、会社の情報とか、自分ってこういうのを大切にしてるよねっていうことをClaudeに読ませることができるので。そうすると、ほかの話とかも、これなんかあなたの信念と違うよ、とかいうときに、結構そこで壁打ちができるんです。
会社の考え方が文章になっていると、AIは「その案は、あなたが大事にしていることと合っていない」と指摘できるようになります。理念を言葉にしておくことは、AIに相談するためにも役に立つわけです。
会議の記録をAIで残す方法は会議の文字起こしと議事録をAIで回すに、毎朝の数字をそろえる方法はAIで店舗の売上・予約の数字を毎朝そろえるに書いています。
自分の考えを、AIに読ませ続ける
AIは、何でもこなせるように見えます。ただ、自分たちの考えを渡していなければ、返ってくるのは誰が聞いても同じ答えです。
代表・中野谷のひとこと
ぶっちゃけAIって、自分で考えて何でもできるんですけど、そうすると当たり前のことしかやってくれないんですよ。アイデアのゼロイチって別にできないので。なので僕たち人間がやるのは、基本的には考え方をアウトプットして、AIに食べさせることかなと思っています。
私たちは、会議を録音して文字にし、代表が何を考えているかを、AIが読める場所に貯め続けています。話したことが貯まるほど、AIの答えは会社の考え方に近づいていきます。壁打ちの相手を育てるのは、AIの性能より、こちらが渡し続ける材料です。
数字と議事録を読ませる前に、確かめること
数字や会議の記録には、お客さまやスタッフの名前、体調や家庭のこと、給与のように、慎重に扱うべき情報が混ざっていることがあります。読ませる前に、次の点を確かめます。
- 会社として契約し、入力した内容の扱いを確かめたサービスで使う
- 個人が分かる情報は伏せるか、要点だけにしてから渡す
- 給与や評価など、個人の処遇に関わる記録は、相談の目的に要る範囲だけにする
個人情報保護委員会も、事業者が個人情報の入った指示を生成AIサービスに入力するときは、その情報の利用目的の達成に必要な範囲に収まっているかを十分に確認するよう、注意を促しています(出典: 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」令和5年6月2日)。経営の相談に、個人の名前が要る場面は多くありません。
AIは「こちらに合わせた答え」を返しがち
壁打ちでいちばん気をつけたいのは、AIがこちらの考えに沿った答えを返しがちなことです。代表も、使っているAIによっては、こちらを気持ちよくさせるような答えが返ってきて、かえって使いにくく感じることがある、と話しています。賛成ばかりの相手と話していても、考えは深まりません。
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、自動化されたシステムや技術への過度の信頼や依存が生じる現象を「自動化バイアス」と呼び、AIに過度に依存するリスクに注意を払うよう求めています。あわせて、見たい情報ばかりが届いて考え方が偏っていく「フィルターバブル」のような、情報や価値観の傾きを助長するAIの使い方にも注意を払うよう挙げています(出典: 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」第2部 共通の指針 令和8年3月31日・2026年10月確認)。
耳の痛い意見を出させるには、聞き方を工夫します。
- 反対の立場から言わせる — 「この案に反対する人の立場で、問題点を挙げてください」
- 立場を分けて話させる — 「お金を管理する人、店長、お客さまの立場から、それぞれこの案をどう見るか」
- 前提を疑わせる — 「この案がうまくいかないとしたら、何が原因になりそうか」
- 別のAIにも聞く — 同じ相談を別のAIにもして、答えの違いを見る
代表は、新しい事業の運営の流れを考えたとき、AIに専門家の立場を何人分か用意させて質問させたり、否定的な意見をあえて入れさせたりしながら形にしていきました。迷ったときは別のAIにも同じ内容を聞かせる、いわばセカンドオピニオンの使い方もしています。AIどうしに議論させ、出てきた結論を代表が判断することもよくあります。
AIの答えと、自分が決めたことを分けて残す
壁打ちのあとは、AIが出した案と、最終的に自分が決めたことを分けて書き残しておきます。残すのは、次の5つで十分です。
| 残すこと | 書き方の例 |
|---|---|
| 何を相談したか | 次の店を出す時期 |
| AIに何を渡したか | 直近の売上と人件費、採用の応募数、会社の考え方の文書 |
| AIの答え | 出店を遅らせ、先に店長を任せられる人を育てる案 |
| 自分が決めたこと | 時期は予定どおり。店長候補の採用を先に始める |
| 決めた理由 | 物件の条件がいま決まっているため |
あとで振り返ると、AIの答えのほうが当たっていたこともあれば、自分の判断のほうが正しかったこともあります。分けて残しておくと、どんな相談ならAIの意見を重く見てよいかが分かってきます。AIの答えと人の判断を分けて残す考え方は、AIに判断を任せるときのルールで詳しく書いています。
決めるのは経営者。AIの答えを参考にとどめる相談もある
AIは、材料をそろえ、論点を出し、反対の意見をぶつけてくれる相手です。ただ、決めるのは経営者です。とくに次のような相談は、AIの答えを参考にとどめ、最後は人と話して決めます。
- スタッフ一人ひとりの評価や処遇 — AIの意見を材料にするとしても、決めるのは人で、本人に説明できる形にしておく
- お金の大きな判断 — 借入や出店、撤退など。税理士や金融機関の意見も聞く
- 法律が関わる判断 — 労務や契約など。社労士や弁護士に確かめる
人に相談する前にAIで考えを整理しておけば、専門家に聞くことも絞り込めます。AIに任せる仕事と人が持つ仕事の線引きは、AIに任せる仕事と人がやる仕事の線引きにまとめています。
まとめ
- 壁打ちの質は、先に何を読ませたかで決まる。会社の考え方、事業の説明、数字、会議の記録を渡し、自分の考えを渡し続ける
- AIはこちらに合わせた答えを返しがち。反対の立場、立場の分け方、前提を疑う問い、別のAIへの相談で、耳の痛い意見をあえて出させる
- AIの答えと自分が決めたことを分けて残す。評価や処遇、お金、法律が関わる判断は、AIの答えを参考にとどめて人と決める
次の一歩として、いま迷っていることを1つ選び、会社の考え方を書いた文章と直近の数字を添えて、「この案に反対する立場で意見をください」とAIに聞いてみてください。返ってきた答えと、自分が最後に決めたことを、1行ずつ書き残すところからで十分です。
よくある質問
AIに経営の相談をして、役に立ちますか?
考えを整理する相手としては役に立ちます。会社の考え方や数字を渡しておくと、自分では気づかなかった論点や、別の立場からの見方を短い時間で出してくれます。ただし、答えが正しいとは限らないので、決めるのは経営者です。
AIに何を読ませればよいですか?
会社の理念や大事にしていること、事業の説明、売上や客数などの毎月の数字、会議の記録です。何も渡さずに相談すると、どの会社にも当てはまる一般論が返ってきます。
数字や議事録をAIに入れても大丈夫ですか?
会社として契約し、入力した内容の扱いを確かめたサービスで扱うのが前提です。議事録や数字の中に、お客さまやスタッフの名前、体調や家庭のことが入っていないかも確かめ、入っていれば伏せてから渡します。
AIがいつも賛成してくれるのですが、信じてよいですか?
気をつけてください。AIはこちらの考えに沿った答えを返しがちです。反対の立場から意見を言わせる、いくつかの立場に分けて話させる、別のAIにも同じことを聞く、といった聞き方で、耳の痛い意見もあえて出させます。